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最高裁判所第二小法廷 昭和55年(行ツ)149号 判決

愛知県豊橋市岩屋町字岩屋下一〇七番地

上告人

有限会社 光楽食堂

右代表者取締役

佐藤隆之

右訴訟代理人弁護士

大矢和徳

愛知県豊橋市前田町一丁目九-四

被上告人

豊橋税務署長

鈴木栄

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和五三年(行コ)第三四号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五五年九月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大矢和徳の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は失当である。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮崎梧一 裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 監野宜慶)

(昭和五五年(行ツ)第一四九号 上告人 有限会社光楽食堂)

上告代理人大矢和徳の上告理由

第一点 原判決には憲法第一四条三〇条の違反があるから取消されるべきである。

上告人は原審において、推計課税が許されるのは、納税義務者が信頼できる帳簿その他の資料を備えず、かつ税務当局の調査に対して資料の提供を拒むなど非協力的であるため、税務当局において納税義務者の所得の実額を調査し計算することができない場合に限ると解すべきである。そして、本件においては、第一審判決事実摘示中の被告の主張「本件処分の適法性五」において被上告人自ら主張するとおり、上告人の所得について実額計算が可能であったのであるから、被上告人のなした本件推計課税は違法である旨主張したのに対し、被上告人が上告人の本件仕入実額を算定できなかったために、法人税法一三一条に基づき、第一審原判決添付別表三ないし五記載のAないしHの八店舗(昭和三八年度においてはAないしEの五店舗)を比準者として選定しその差益率により上告人の総利益(荒利益)を算定したのは、第一審判決の説示と同一の理由により適正かつ合理的であると認められる。したがって、本件課税処分が憲法に違反する旨の上告人の主張は理由がないし、上告人の4及び5の主張もこれを採用することができない旨判示した。

然し乍ら、本件課税処分が憲法に違反するか否かの判断は本件課税処分の適正かつ合理的であるか否かの判断に先行すべきものであり特に第一審判決は本件課税処分が憲法に違反するか否かについての判断をしていないのであるから第一審判決の説示と同一の理由により本件課税処分が憲法に違反する旨の上告人の主張が理由がない旨の判断には理由の不備があることは明らかである。そして被上告人が本件各年度の所得を推計するに当って適用した差益率は被上告人だけで算定した非公開なものであるから、右差益率を適用して課税することは憲法一四条並びに三〇条に違反するものであることは明らかである。よって原判決には憲法第一四条並びに三〇条の違反があるから取消されるべきである。

第二点 原判決には憲法第三二条の違反があるから取消さるべきである。

一、憲法第三二条は何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないと規定しているが、右に所謂裁判所において裁判を受ける権利であることは民事訴訟規則第一条の規定をまつまでもなく明らかである。

二、然るに原判決は乙第一号証の一ないし三、第二、三号証の各一、二、第四号証の一ないし三、第五号証の一、二、第六号証の一ないし三、第七、八号証の各一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証ないし第一二号証の各一、二、第一三、一四号証の各一ないし三、第一五号証の一、二、第一六、一七号証の各一ないし三、第一八、一九号証の各一、二、第二〇号証、第二一号証の一、二は形式的証拠力を有する旨判示している。

然し乍ら、一般に真正に成した文書が形式的証拠能力を有するためには、当該文書が、原始的に作成されたままの形で証拠として提出されることが必要であると解すべきところ、右各号証はいずれも当該納税者が作成した確定申告書を税務署長において、納税者の氏名、又は法人名、納税地や住所地の一部、仕入先、借入金の借入先、役員及び家族の状況、従業員の氏名、関係税理士の住所氏名等を貼り紙で秘匿したものであるから、納税者が作成した書面とは全く異質別個の文書であることは明白である。しかも右各文書は夫々の立証事実と密接に関連のある部分がことごとく秘匿されている為に相手方である上告人において右各文書の証明力を減殺する為の調査をすることすら不可能である。民事訴訟法においては形式的真実発見主義がとられているとはいえ反対当事者に対して当該証拠の信憑力に対するテスト(反対尋問)をする機会を与えることが公正の裁判のミニアムの原則として要請されている。

然るに、被上告人は右各文書を提出することによって上告人による一切のテストを悛拒しているのであるから、このような不合理を肯定した原判決が裁判の名に値しないことは明白である。

よって原判決は憲法第三二条に違反しているから速かに取消さるべきである。 以上

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